冬の寒い時期によく耳にする「ヒートショック」。
夏の「熱中症」と並んで市民権を得ている言葉ですが、実は正式な医学病名ではなく、私も学生時代に教わったことがなかったので調べてみました。
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「急激な温度変化が体へ及ぼす悪影響」の総称がヒートショック。
暖かい部屋から寒い廊下、脱衣所、浴室、トイレ、寝室などへ移動した際、不整脈や心筋梗塞、脳卒中などを引き起こす危険性を啓発する目的で使われるようになりました。
中でも、命に関わる危険性が高いのが浴槽内での溺水です。
寒い脱衣所や浴室で裸になると、寒さで血管が収縮して血圧が急上昇します。
その後、風呂で温まると血管が拡張して、今度は血圧が急激に低下します。
しっかり温まろうと長湯を続けると汗をかいて脱水になり、ますます血圧が下がります。
体や手足に血液が多く流れると、相対的に脳への血流が少なくなり、目まい、頭痛、吐き気、動悸などの症状がみられます。いわゆる「のぼせ」状態です。
慌てて立ち上がろうとして、ふらふらしたり、目の前が暗くなったりしたことはありませんか?
立ち上がると浴槽内でかかっていた水圧による締め付けが突然なくなり、さらに、重力で血液が下半身に流れ「脳貧血」状態となるためです。
血圧が下がり過ぎると失神して浴槽内で倒れ、最終結果として溺れて亡くなってしまう人がいます。
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日本の人口動態統計によると、令和5年度に「浴槽内での溺水」で亡くなった人は6909人にも及び、交通事故死の3573人を大きく上回っています。
年齢比率では、亡くなっている方の実に95%が65歳以上の高齢者です。
私も、風呂場で溺れた方の心肺蘇生を行ったり、検死に立ち会ったりして、非常に悲しい思いをしたことがあります。
次回は、寒い日にも安全に、気持ちよく入浴できるよう、予防策を解説します。
(2025年2月4日(火)付MGプレス「健康の見つけ方」から)