(信濃毎日新聞中信版MGプレスに掲載されたものを再掲しています。)
ある日の当直中、「吐血の患者さんです」と連絡が入りました。
救急車が到着後すぐに内視鏡検査を行うと、出血の原因は胃潰瘍でした。
無事に止血処置を終え、84歳のF美さんは輸血をしながら入院になりました。
どうやら関節痛を和らげるために、整形外科で処方された痛み止め薬が胃を刺激したようです。
入院後、関節痛の原因は「痛風」と診断されました。
痛風は食べ過ぎにより「尿酸値」が高くなって起こる男性に多い病気で、女性には珍しいことです。
そこで調べてみると、内服薬の中に「利尿薬」があることが気になりました。
利尿薬は心不全の方が心臓の負担を減らすために使う薬ですが、F美さんは心臓に問題はありません。
尋ねると「両脚のむくみが気になるので内科で処方してもらった」と答えてくれました。
利尿薬は血管内の水分を尿として出すので、血液が濃くなり尿酸値が上がることがあります。
痛み止め薬は腎臓の働きを低下させ、むくみの原因にもなります。
利尿薬と痛み止め薬が、相互に悪影響を及ぼしていた可能性が高そうです。
そこから、むくみ→内科から利尿薬→高尿酸血症→痛風→整形外科から痛み止め薬→胃潰瘍→吐血→救急搬送、というストーリーが浮かび上がりました。
予想通り利尿薬を中止すると尿酸値は正常となり、関節の痛みは改善し、痛み止め薬も不要になりました。
複数の医療機関にかかるとどうしても薬が増えてしまいます。
こんな時に頼りになるのが薬剤師さんです。
薬の専門家として、副作用や飲み合わせ、重複、薬の量が適切かどうかなどをチェックしてくれます。
広まってきた「お薬手帳」は、私たち医師も参考にして大変助かっています。
薬のことだけでなく健康アドバイスもしてくれる薬局が増えています。「かかりつけ薬局」も持ちましょう。
(2018年9月18日付MGプレスから)