医良人コラム
17/7/26

第4回 日野原重明先生を偲ぶ

先日平成29年7月18日に聖路加国際病院名誉院長の日野原重明先生が105歳でお亡くなりになられました。

私自身は直接のご面識はないのですが、長野県にも何度も足をお運びいただいて、幾度かご講演を拝聴し、医療に対してまっすぐであること、目線の先が常に住民の方を向いていること、もちろん大変ご聡明であり、かつ先見の明が高いこと、衰えぬ意欲と行動力を兼ね備えていらっしゃる尊敬する医良人のお一人でした。

学生時代の結核療養体験、よど号ハイジャック事件、生活習慣病の提唱や人間ドックの導入などによる予防医療の普及、終末期医療への取り組み、地下鉄サリン事件の対応、小学生を対象にした「いのちの授業」、精力的な講演活動、音楽劇への出演、新老人の会の設立などさまざまなエピソードがございますが、やはり世の中のみなさまの最も関心が高かった点は、100歳を越えてもなお現役でご活躍を続けておられたお元気さという点だったと思います。

日野原先生はまさにご自身で健康長寿の見本のような方であったことはみなさまが認めることでしょう。

私は、先生が尊敬を集める点でも、健康を維持する点でも、大きな要素の一つに『意欲』というものがあるのではないかと考えています。

健康長寿の秘訣のひとつに、「意欲を持って、社会性や家族とのかかわりを持って、役割を果たすこと」が大切なことだとよく言われます。
それを、とても高いレベルで実践して継続し続けたことが、誰よりも注目を集めて、実績を残し続けた理由ではないでしょうか?

ご講演でも、若い医師や学生たちに、ご自身も含めて一生涯、毎日が勉強であるとお話をされておられ、いくつになっても歩をやめることはありませんでした。
常に手帳には3年先までの予定を入れて、東京オリンピックも楽しみにしていたようです。

引用ではございますが、日野原先生は長生きの秘訣は3つの『V』だと先生はおっしゃっておられたそうです。
◎1つ目のVは Vision〔ビジョン〕
「視野」や、「将来的な見通し」

◎2つ目のVは Venture〔ベンチャー〕
「冒険」や、「冒険的な企て」

◎3つ目のVは Victory〔ビクトリー〕
「勝利」です。

『将来を見据えて、現状に満足せずに、歩を進めて、達成する喜び』を知る。
これが、先生の気持ちをお若く保つ秘訣であり、まさに『意欲』ということにつながるのではないでしょうか。

日本全体が成熟期を過ぎて、現状を保っていればよいという雰囲気が個人でも組織でも強く感じられますが、それだけでは、まさに『老いて』いく危険性はないでしょうか?
私たちも『意欲をもって前進を続ける』という、日野原先生の姿勢を見習いたいものです。

また、ご自身で、健康長寿を体現、具現化していることが、見習いたいと多くの方に感じさせる力だったのだと思います。

お体の調子を落とされてから、最後は、嚥下機能や消化機能の低下によって食べることが難しくなりましたが、体に管を入れて栄養を摂る経管栄養や胃ろうをやらないと、しっかりと意思表示をされて、ご自宅で最後まで過ごされたそうです。

ご自身のしっかりとした意思をもって、かつ実践し続けること、これも人生にも、健康長寿にも共通して必要な大切な姿勢です。

日野原先生のような医療界の大きなオピニオンリーダーを失ったことは残念でなりません。
健康をあずかるという同業の端くれに位置させていただいている者として、今後も先生のお考えを少しでも、地域にお伝えしていきたいと考えています。

偉大過ぎる日野原先生のことを短い文章では語れ尽くせませんが、最後に、私が日野原先生が医療者向けのご講演でおっしゃっておられました印象に残る一言をご紹介をさせていただきます。

国民の参与なしには、国民の健康は得られない
Health cannot simply be given to the people. It demands their participation 』
ルネ・サンド 1877-1953 ベルギーの社会医療学者

先生は、医療や健康は専門家だけのものではなく、一般の住人の方々にも目をむけて,そしてその人々に参加してもらうことによってはじめて国民の健康が実現されるということを私たち医療者にも一般の方々にもお伝していただきました。
100年前の言葉は今も、その通りだと思います。

ぜひ先生の思いが届くように、今後も私たちは地域の方々へ健康情報を届ける活動を継続してまいります。

 

日野原重明先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

 

内科医 小手川 直史