医良人コラム
17/9/6

第7回 患者さんとのコミュニケーションの重要性

安曇野赤十字病院 名誉院長
整形外科 澤海明人 医師

 

これまで長年背骨の病気を中心として整形外科の診療を続けてまいりました。
最近は各種メディアやインターネットを通じて様々な情報があふれており、一昔前と比較すると医療の知識を持った患者さんがずいぶん増えたように感じます。

ただそれが本当に正確な知識かどうかは疑問もあります。

「3時間待ちの3分間診療」と言われた時代に比較すると、診療所(開業医)と病院の役割分担と協力体制を進めることで、病院の外来の患者さんの数はかなり減りました。その結果、以前よりは一人一人の患者さんに時間をかけて丁寧な診療ができるようになり、患者さんとお話をする時間が増えました。

患者さんに正しい知識を持っていただくよう丁寧な説明をすることは極めて重要な医療者の役割です。

もちろん医療は日進月歩ですので、医療者も日々研鑽を積み、学問的、人格的に自分を高める努力を常に心がける必要があります。

医療は患者さんと医療者の共同作業によって成立するものだと思っています。医師は患者さんの良き理解者であり、また患者さんは医師の、そして不確実性を含めた現実の医療の良き理解者である必要があります。

こうしたお互いの信頼関係を築くことが良い治療につながるのではないでしょうか。まだ十分とは言えませんが、私もできるだけわかりやすい言葉で患者さんに無駄のない丁寧な説明をすることを心掛けているつもりです。

病状や今後の見通しなどをできるだけ丁寧に説明し、疑問にお答えすることで、特別な治療もしないのに長年腰痛で苦しんでいた患者さんがお元気になることが時にあります。私たち医師にとっては、手術でお元気になる患者さんと同様こうした患者さんを診ることも大変うれしいことです。

 

以下少し背骨の病気について触れます。背骨の異常には腫瘍、炎症、骨折などの注意しなければいけない病気も一部ありますが、主なものは変性疾患といって加齢変化に伴って生じる腰の痛み、背中の痛み、首の痛み、手足のしびれや痛みを起こす病気です。こうした病気では正確な診断が重要になります。膝などと同様に背骨は必ず加齢的な変化をします。加齢による自然な経過としての変化なのか、症状の原因になっている変化なのかという診断を的確にしないと、おかしな治療になってしまいます。正確な診断をして、症状の原因になっているところをしっかり治療することが極めて重要です。

いくら加齢的な変化が強くても症状が出ない方もいます。椎間板ヘルニア症状のない人の76%にMRIの画像上ではヘルニア所見があるというデータもあります。つまりMRIの所見だけで診断すると、椎間板ヘルニアの症状のない人の4人に3人がヘルニアと診断されてしまうことになります。また腰だけでも椎間板は5か所あります。MRIでは複数の椎間板がヘルニア所見を示す場合もあります。この場合も、どの椎間板が症状の原因かをはっきりさせることが重要です。

皆さまが正しい医療の知識を得るために、この医良人コラムが一つの手がかりとなることを期待しております。