医良人コラム
17/11/15

第9回 歯科衛生士という仕事

                  信州大学医学部附属病院 歯科口腔外科
高橋 絢 歯科衛生士

 

『歯科衛生士』という職業についてご紹介させて頂きたいと思います。

歯科衛生士という職業をご存じの方はどれ位いらっしゃるでしょうか?
歯科衛生士の就業人数は平成22年に十万人を超え、医療職の中では看護師・医師・薬剤師に次ぐ人数となっています。意外(?!)に人数の多い職種なのです。

 

歯科衛生士とは
歯科衛生士の資格は1948年(昭和23年)制定の歯科衛生士法に基づく厚生労働大臣免許の国家資格です。

歯科衛生士は、歯科疾患の予防や口腔衛生の向上を図ることを目的として、歯・口腔の健康づくりをサポートする専門職です。

歯科衛生士になるには、修業年限3年以上の歯科衛生士養成機関で知識や技術を習得し、歯科衛生士国家試験に合格する必要があります。4年制大学による教育も行われ、今後増える事も予想されます。最近はさらに大学院で学び、研究者への道も開かれてきました。

国家資格である点が歯科助手とは異なっていて、患者さんの口の中の処置ができるのは歯科衛生士です。

 

歯科衛生士の業務
仕事の内容は、次の三つの業務が法律に定められています。

① 歯科予防処置

人が歯を失う原因の90%が「むし歯」と「歯周病」です。
この二つを歯科の二大疾患といい、国民の多くが罹患し生活習慣病とも言われています。

一生自分の歯を保つ為には、二大疾患を予防する事が大切なのです。

むし歯を予防する為の「フッ化物塗布」等の薬物塗布や歯垢(プラーク)や歯石など、口腔内の汚れを専門的に除去する「機械的歯面清掃」など、予防の為の医療技術があります。

歯科衛生士はこのような医療技術を行う専門家です。

 

② 歯科診療補助

歯科衛生士は歯科医師の診療を補助し、歯科医師の指示を受けて歯科治療の一部を担当するなど、歯科医師と協働して患者さんの診療にあたっています。

 

③ 歯科保健指導

歯科保健指導では赤ちゃんからお年を召した方まで、健康な人、病気や障害のある人など、すべての人に正しい生活習慣や歯磨き指導を中心にセルフケアの方法・予防について専門的に指導していきます。

また、超高齢社会とも言われる現在において、寝たきりの方や要介護者等に対する訪問口腔ケアも重要になってきています。

さらに、最近では、食べ物の食べ方や噛み方を通した食育支援、高齢者や要介護者の咀嚼や飲み込みの力を強くする為の摂食・嚥下機能訓練も歯科保健指導の一つとなってきています。

 

歯科衛生士の就業場所
歯科衛生士の就業者の約91%は歯科医院にて働いていますが、残りの約9%が、病院や介護保険施設、市町村、保健所や歯科衛生士養成所、企業等で働いています。

近年では、「歯・口腔の健康と全身の健康の関係」が明らかになり、歯科衛生士の就業場所も歯科医院だけでなく広がりつつあります。

特に誤嚥性肺炎の予防の為に口腔ケアが重要であるとの研究結果が発表されてから、高齢者施設等で働く歯科衛生士が年々増えてきています。
長野県の高齢者施設でも、歯科衛生士がいる施設が増えてきています。

 

□□□□□□□□□□□□□□□□  歯科衛生士の勤務先の状況     

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□診療所以外の勤務先の内訳

 

          平成28年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況 厚生労働省

 

大学病院の歯科衛生士の業務
歯科衛生士は勤務する職場によって、業務内容が異なってきます。今回は私の勤務する大学病院での歯科衛生士の仕事をご紹介します。

私の勤務する大学病院は口腔外科であり、診療内容としては主に下記になります。

    1. 各種顎口腔疾患(口の粘膜の疾患、顎の骨や関節などに起る様々な病気:親知らず、嚢胞(膿の袋)、骨折などの外傷、顎関節疾患や良性・悪性腫瘍など)の治療
    2. インプラント治療
    3. 摂食嚥下に関する医療
    4. 基礎疾患などにより通常の歯科通院が困難な患者さんへ、医学的な配慮の元行う歯科治療
    5. 周術期の患者様への口腔管理・口腔ケア

歯科衛生士としての業務内容は、特に④番の歯科治療・口腔管理⑤番の周術期口腔機能管理があります。

④ 当院での歯科治療では、入院中の患者さんや主に開業医さんからの紹介状をお持ちの外来患者さんの診療補助や口腔ケアを行います

⑤ 『周術期の口腔ケア』とは、癌等の治療における化学療法・特に頭頸部の放射線療法中の口腔ケアや手術前後の口腔ケア・管理の事です。

放射線治療や化学療法はがん細胞だけではなく、その周囲の正常な細胞にも影響を与えます。

放射線治療や化学療法による口の中への有害事象を100%防ぐ事は出来ませんが、口の中を清潔に保つ事で有害事象を軽くしたり、抑えたりする事ができると言われています。

患者さんの苦痛を最小限にとどめ、QOL(生活の質)の低下を防ぎ、治療を完遂してもらうために歯科衛生士は口の中の衛生管理や指導に取り組んでいます。

 

その他、医師、看護師等も含めた新入職員に対し口腔ケアについての講義を行ったり、糖尿病内科より依頼があり、月に一回程度のペースで糖尿病のコントロール目的で入院されている患者を対象に、歯周病と糖尿病との関係について講義をしています。

また、歯科医師・歯科衛生士・看護師・言語聴覚士・栄養士で構成されている口腔嚥下チーム(NST)主催の勉強会で院内スタッフを対象に口腔ケアの必要性や口腔ケア方法などを講義し、口腔管理や医科歯科連携への啓発に努めています。

その他歯科衛生士学校の学生への臨床実習での指導を行い、医学部生の臨床実習でも、歯科衛生士が行っている口腔管理を術者になって体験してもらい、口腔管理の大切さについて理解してもらえるように努めています。

大学病院の歯科衛生士として、『教育・研究』と『歯科医療』を2本柱として日々取り組んでいます。

 

『歯科衛生士』という医療職は、歯科医院という場所だけではなく、着実に活躍する場所を増やしつつあります。

皆さんの周りにも、近くに『歯科衛生士』がいるかもしれません。口の専門職として、皆さんの健康をサポートさせて頂きたいと思っています。
どうか気軽に相談して下さい。

そして、医療の中でも是非チームの一員として、声をかけて頂ければ幸いです。